京都・宇治の夏の風物詩として親しまれる「宇治川の鵜飼」。通常の鵜飼では、鵜に綱を付け、鵜匠はその綱を操り漁をしますが、宇治川では全国で唯一、綱を使用しない「放ち鵜飼」も行われています。今回は「放ち鵜飼」のトレーニングを見学し、鵜匠の沢木万理子さん、江﨑洋子さんにお話を聞きました。沢木さんは鵜匠デビューから22年目、江﨑さんは18年目と、長く鵜と関わってこられたお二人です。
宇治川の夏の鵜飼では、鵜舟に乗る鵜匠が綱につながれた鵜を操る様子を客船から間近で見ることができます。「放ち鵜飼」は、綱を使用せずに鵜を川に放ち、自由に魚を獲った鵜を鵜匠が呼び寄せる漁法。国内では2001年まで島根県益田市の高津川で放ち鵜飼が実施されていましたが、今では宇治川だけで行われています。鵜飼は、鵜飼向けに捕獲された野生の鵜が活躍してきましたが、放ち鵜飼で活躍するのは人工ふ化で誕生した「うみうのウッティー」たち。野生の鵜が飼育下で卵を産むことはないと思われていましたが、2014年に宇治川の鵜たちに一組のつがいができ、初めて卵が産まれました。そして国内初の人工ふ化により雛が誕生、一般公募で「うみうのウッティー」と名付けられました。人工ふ化で産まれた12羽すべてがウッティーと呼ばれ、夏の鵜飼で活躍する鵜もいます。
トレーニングの前に、宇治川中州の塔の島にある鵜小屋を見せてもらいました。野生の鵜とウッティーが隣接する小屋にいます。人工ふ化で生まれ、人の手で育てられたウッティーは、野生の鵜より人に慣れやすい特性があります。ウッティーの小屋を掃除する沢木さんに一羽が近づき、話しかけるように鳴き声を上げる姿も。「野生の鵜と正面から向かい合うのは危ないと教わってきましたが、ウッティーとなら向き合うことができるんです」と沢木さん。人が育てたからこその特性を活かし、綱を使用しない「放ち鵜飼」が始まったのです。
鵜小屋の掃除が終わると、トレーニング場所の池へ。ウッティーたちは、仲良しペア同士でかごに入れられて運ばれます。仲良しペアは一度決まればずっと変わらないのだとか。かごに入らず沢木さんの腕で運ばれているのは2022年生まれのウッティー。この年に生まれたのは1羽のみで、とても大事に育てられたため、鵜匠さんからは「若様」と呼ばれているそうです。
トレーニングでは、川魚を池に投げ、綱でつながれたウッティーたちがそれを追いかけました。水に潜る姿はしなやかで、スピードがあります。魚を獲って沢木さんや江﨑さんのもとに戻ってくれば、喉に巻いた綱がゆるめられ、魚を飲み込むことができます。この日は魚を吐かせることはしませんでしたが、ウッティーのコンディションによって吐かせるトレーニングも行われます。
鵜は賢く、嫌なことがあるとしばらくそれを覚えて拒絶してしまうそうです。魚を獲って気持ちよく戻ってきてくれるよう、「戻ってきたら良いことがある」ということを覚えさせることが大事だといいます。ただ、日常のトレーニングでうまく戻ってきたとしても、大勢の観光客がいる環境や、その時々のいろいろな要因に影響され、戻ってこない日もあるのだとか。「安定させるために試行錯誤しています」と沢木さん。2021年から始まった放ち鵜飼の挑戦は続きます。
今年10月に、宇治市で「第25回全国鵜飼サミット」が開催されました。宇治市での開催は21年ぶり。鵜飼を実施する11地域と鵜の捕獲地1カ所の関係者が宇治市に集まり、各地の鵜飼の紹介や、放ち鵜飼の実演も行われました。各地の鵜匠さんが放ち鵜飼に注目していたそうで、江﨑さんは「ウッティーが良く慣れていると言ってもらえました。宇治川ならではの鵜飼をお見せできたのでは」と笑顔。鵜飼関係者だけでなく、一般参加者にとっても各地の鵜飼を知ることができる良い機会となったそうです。
全国の鵜飼の現状を見ると、鵜匠や鵜舟の船頭の後継者不足の問題を抱えているそうです。川の環境の変化によって続けられなくなることもあります。伝統のある鵜飼という文化をこの先も残していけるよう、まずはたくさんの人に鵜飼を知ってほしい!と強く思いました。
現在、宇治川の鵜飼では、11月25日・26日に開催される鵜匠講演と「放ち鵜飼」見学ツアーの参加者を募集中です。鵜匠さんの解説を聞きながらウッティーたちの様子を間近で見学することができ、宇治ならではのお食事も楽しめる「ハレの日」な機会です。詳しくは宇治市観光協会ホームページをご覧ください。