REPORT レポート

写真芸術の振興に寄与してきた「第19回 京都現代写真作家展 京都写真ビエンナーレ2023」を訪れました📷

京都府内の居住者や勤務・在学する人が応募できる「第19回 京都現代写真作家展 京都写真ビエンナーレ2023」が12月13日~1 7日、 京都文化博物館(京都市中京区)で開催されました。開催に先だって実施された内覧会を訪れ、入選受賞者の皆さんから作品への思いを聞きました。

作品を眺める来場者の様子

京都写真ビエンナーレは京都府と開催実行委員会が主催。写真芸術の振興を図り、写真を通じた交流機会の創出を目指し、1986年から隔年で開催されてきました。「ビエンナーレ」とは、イタリア語で「2年に一度」という意味で、「隔年で開催する美術展覧会」を表す言葉としても使われます。まさにこの写真展も「ビエンナーレ」です。

会場となった京都府京都文化博物館

今回のテーマは「PRESENCE/いま、在(あ)ること」です。開催要項によると「目の前の現実をしっかりと見つめ、そこに蓄積されたさまざまな過去を喚起する力」が作品に求められています。

内覧会の様子

内覧会では、実行委員長を務める京都芸術大学大学院教授でグラフィックデザイナー・写真家の佐藤博一さんが案内役を買って出てくれました。佐藤さんによると、212人から524点の作品の応募があり、審査を経て入選作品を含む展示作品の114点が決まりました。

内覧会で会場を案内した実行委員長の佐藤さん

会場に展示している合計170点の写真は、審査対象外の賛助出品や、府内高校生の選抜作品を加えたものです。展示する上での工夫として、「これまでは、およそ190点だった展示点数を170点に絞り、スペースをゆったり確保しつつ、見やすい仕立てにしました」と、佐藤さんから案内していただきました。

府内高校生の選抜作品たち

大賞と準大賞がそれぞれ1点のみ。ほかに優秀賞と35歳以下に贈られる新鋭賞があります。内覧会では受賞者4人から詳しいお話をうかがうことになりました。知りたいのは、作品が仕上がった経緯や、撮影された時の「いま、在ること」。まさに「ハレの日」を迎えた皆さんから、どんな話が飛び出すかわくわくします。

大賞受賞の喜びを語る蒲生さん

大賞を受賞した、滋賀県出身の蒲生幸佳さん(43)の作品名は「無関係な関係」。手前に、影がかかり表情がうかがい知れない、中学生くらいの少年がこちらをのぞく姿。奥には、少年と同じく影のかかった女性らしい人物が壁際にたたずんでいます。

京都市内のホテルに勤めている蒲生さん。作品を応募するにあたって、仕事の合間に、普段の風景を選びました。場所は、通勤路にある京都刑務所(京都市山科区)の前。白壁を背に自撮りしようと、少し離れた位置からカメラを向けていました。作品の中の女性は蒲生さん自身。撮影中に通りかかった少年がカメラをのぞく瞬間があり、この瞬間が作品になりました。

偶然に撮れた写真を見て蒲生さんは「少年が『大人は何でもできるのにつまらなさそうにしている』と思っているよう。若さって可能性」と思ったそうです。 実行委員長の佐藤さんからは「偶然と演出、青空と白壁といった対比がすばらしい」と講評がありました。

蒲生さんは写真を始めて約15年で、写真が自身の「居場所」になっていると言います。京都写真ビエンナーレについて「すごい人たちがこれまで受賞している」という畏怖の念を抱く中で、大賞に自身の作品が選ばれました。それも「ひと区切り」直前の最後の回です。「最後の最後にこんなことになるなんて」という言葉でうれしさを表現してくれました。

人と話すのが苦手と言う蒲生さんですが、たくさんの素敵な言葉で感想を語ってくれました。同時に、過去の受賞者の思いを「つないでいく」と、今後の意気込みも。「SNS(交流サイト)に載せるのではなく、壁に飾る写真の良さ」を教えてくださり、その熱い思いが伝わってきました。

作品について説明する準大賞の関さん

準大賞を受賞した関保道さん(48)の作品は、一面にひび割れた黒い壁が写った写真です。作品名は「area(エリア)」。画面中央に黄色と黒のしま模様のロープが横断し、そのロープの影も写り込んでいます。関さんからは、撮影された時の「いま、在ること」だけでなく、関さん自身の思いを聞くことができました。

神戸市内で医師として働く関さんは、写真を始めて約12年だそうです。自身の子どもや、街中の風景などを撮っていましたが、ここ数年間は「戦争」をテーマにした写真を撮影するようになりました。神戸は作家・野坂昭如さんが自身の戦争体験を小説にした「火垂るの墓」の舞台であったり、市内に戦争遺跡があることが理由だそうです。

2022年の春ごろ、岡山や広島など中国地方に出向き、戦争の遺跡を巡る旅をしました。かつて「東洋一の軍港」と呼ばれた広島県呉市の港の近くで見つけた、モルタルでできた倉庫の壁が作品となりました。関さんは、ロシアによるウクライナ侵攻を思い浮かべ、ひび割れた壁はまるで世界地図だ、と。「分断された国や国境」「ロープが『入ってはいけない』もの」を表していると感じ、シャッターを切りました。

実行委員長の佐藤さんも「ひび割れの部分が国境線のように見える」と講評します。写真自体は、画像編集アプリを使って淡い青色やくすんだ赤色などに色分けの加工を施したとのこと。関さんは、この作品を通じて「分断された国が平和に、一緒になることを願いたい」という思いを語ってくれました。 そして、写真展について「第19回の今回でひと区切りとなるのが残念」と、今回の受賞をかみしめるように話していました。

カメラを片手に思いを語る優秀賞の成実さん

優秀賞を受賞した一般社団法人理事長の成実憲一さん(52)の作品名は「共に目をつむる」。15点の写真がより合わさって1枚の作品になっています。写真に納まる人々が目をつむっており、一見して不思議な写真です。

障がい者福祉の仕事に従事しながら「福祉とアート」をテーマに写真を撮る成実さん。今回の受賞作品も「福祉」がテーマですが、作品ができたきっかけは息子さんでした。

当時6歳の息子さんとの関係が上手くいっていなかったある日、息子さんの寝顔を見る機会がありました。「日々優しくしないといけない」「目をつむると素の表情が見える」といった思いを抱きました。このことが契機となり、2014年から今日まで、京都や滋賀などでおよそ3千人に及ぶ老若男女の「目をつむる姿」を写してきました。

写真のモデルになってください、と成実さんは「突撃」でお願いするそうです。被写体になることや作品掲載に関する同意書も用意して丁寧な説明を行ってきたからでしょうか、撮影の時だけでなく、その後も交流がある人もいるということもうかがいました。

福祉にまつわる写真展を企画している成実さん。お話をうかがっていて、ますます湧き上がる「福祉とアート」への意欲を感じました。

作品への思いを語る新鋭賞の池さん

新鋭賞を受賞した池愛莉さん(19)。現在、大学1年生の池さんは高知県出身で、中学生の時に写真部へ入部したのをきっかけに写真を始め、今でもカメラサークルに入り写真の活動を続けていいます。受賞作品は「君を想う」。夕日が差し込む教室の窓から外を眺める学生らしき女性の姿が。一見して日常の何気ない風景です。

高校3年生の時、夕方の教室で友人を撮影した1枚です。受験勉強の合間を縫って、友人にモデルになってもらいました。自然な表情を引き出すため、会話をしながら撮影を続け、目の輝きや夕日の光線がベストな今回の1枚をものにしました。

高校生の時に高知県議会のコンテストで受賞歴もある池さん。作品名の「君を想う」の意味や、誰が「思う主体」で、誰が「思われる対象」であるのかは、「鑑賞する人が自由に思ってほしい」と話してくれました。

開催案内チラシ

さまざまな作品に触れ、撮影した受賞者からお話をうかがい、作品1枚1枚に撮影された瞬間の「いま」が表れ、そして「物語」が紡がれていることをひしひしと感じました。受賞者記念展が、2024年の7月24日~28日に実施予定とのことで、こちらの開催も楽しみですね。