今回で13年目を迎えた木津川アート。京都府南部の木津川市で開催される地域芸術祭として定着してきました。野外や屋内に芸術作品が点在しており、見て回る楽しさがあります。今年は、関西文化学術研究都市のニュータウンが広がる梅美台(うめみだい)・州見台(くにみだい)と歴史深い集落の市坂(いちさか)が舞台です。11月の3連休最終日に地域を巡って「芸術の秋」を満喫してきました。
15人・団体のアーティストが出展した今回は、「みらいとあそぼ」がテーマ。そもそも木津川アートは、隣接する奈良の平城遷都1300年祭と国民文化祭の関連事業として2010年に初めて開催されました。木津川市や市民らでつくる「木津川アートプロジェクト」が主催し、14年からは隔年開催となりました。8回目の今回、地域の企業や学校とアーティストが制作段階から一緒に作り上げているのも新しい試みです。
遠くは奈良県の生駒山も一望できる高台にある金属加工会社の抱月(ほうげつ)工業株式会社の広場に、西村怜奈さんの作品が野外展示されていました。三角屋根の小ぶりな「家」。扉が開いているので中をのぞくと、そこには和紙で作った家や道路、鉄道の模型が並んでいました。「家の中に木津川市の街並みを表現しました」と西村さん。鉄骨造で外壁はしっくい。内装は、地場産品のふすま紙を山城織物協同組合から提供してもらったそうです。「家は太陽系でこの広場は銀河系です。人間が起こす出来事を俯瞰(ふかん)してほしい」と西村さんが制作意図を話してくれました。
ゆったりとした区画の住宅街と最先端の研究施設が立地しているのが学研都市の特徴です。大通りに面したタツタ電線株式会社の門前には木津川市出身の中島和俊さんの作品がありました。「スクラップの上に山」と題した鉄の彫刻です。抱月工業株式会社の製造工程で出るスクラップ鉄板が土台です。その上に中島さんが制作したスチールフレームが秩序良くデザインされています。
近くのきっづ光科学館ふぉとん内には、吹雪大樹さん・テクマクさん夫妻の写真作品があります。壁に埋め込まれた筒状ののぞき窓から、小さな写真が鑑賞できます。懐かしかったり新しかったりする被写体。木津川市内に何度も通い、撮影したといいます。白と緑の横断歩道と「飛び出し坊や」や古びたたばこ自動販売機、郵便ポストなど、ノスタルジーあふれる写真など87点。知った場所を探し始めると時間があっという間に過ぎるほど見応えがありました。
ニュータウンに近接する市坂の集落にも展示会場がありました。今は操業していないボタン工場に、3人の作品が展示されています。
そのうち、山下茜里さんの作品は木造の急な階段を上ると現れました。薄暗い部屋の天井やはりに大小1100個の「目玉」がこちらを見つめます。にらみ付けられているようでぎょっとしました。一つ一つに生命が宿っているような存在感。見方によってはどこかやさしげでもあります。これらは「ろう染め」の染色作品です。床には、年季の入った箱や袋から無数のボタンがこぼれ落ちたように散らばっています。かつては活気があった工場の面影がしのばれます。「今は使われていない工場ですが、人間の気配を感じ取ってもらえたら」と山下さん。
別の建物には、笹岡敬さんの二つの作品がありました。暗い屋内に入ると、赤・青・緑の光を放つ小さな物体が飛び交っていました。笹岡さんによると、これはプロペラで飛翔(しょう)するLED照明を天井からケーブルでつないだものです。「光る虫」を表現しており、同じ動きは二度としません。
もう一つは、水を張った透明な筒状の器を下からライトアップし、天井に映し出す作品です。屋内に吹き込む風で水面が揺れると天井の光も揺れます。二度と同じ形にはならない光の波紋。笹岡さんは「見る者のなかに意識の流れを作ることを意図しています」と説明してくれました。
スタンプラリーやワークショップもありました。ショッピングセンターの一角で、池口友理さんが「みんなでつくるスーパーの絵」をテーマに子ども達と共作した菓子売り場の陳列棚のような絵画がありました。ジュースの自動販売機など池口さんのユニークな作品も目を引きました。
地元の小学校、中学校、高校の児童・生徒も出展アーティストの制作段階から関わっているのも今回の特徴です。出張授業でワークショップを行ったコラボ作品の展示も注目されていました。アーティストにとっても地元の子どもたちにとっても『ハレの日』のようでした。
マップを見ながら13会場を歩いて回ることもできます。無料シャトルバスも運行されています。その場に溶け込んでいたり、異彩を放ったり、個性あふれる作品ばかり。いずれの作品からもアーティストと地域が一体となって生み出した息吹を感じました。会期は11月19日までです。