文化庁の京都移転に伴い、京都府庁近くで歴史的建造物や庭園、工芸作品など文化・芸術に触れる秋の恒例イベントは、ことしから「文化庁・府庁界隈まちかどミュージアム」として参加施設を増やして始まりました。11月19日までの開催で、30を超える施設が参加し、うち32カ所では抽選で記念品が当たるスタンプラリーも実施。秋の訪れと少し肌寒さを感じながら、地下鉄丸太町駅からゆっくりと歩くことにしました。
まず、京都御苑に歩を進めると、宗像(むなかた)神社がありました。その歴史は古く、平安京遷都の翌年、795年に桓武天皇の勅命により、宗像大神を迎えたと伝わります。平安中期以来、裏鬼門を守る役割を託され、公家の花山院家の邸内に鎮座していました。
宮司の高屋定房さんからは「境内にはモミジも多く、秋が深まれば美しい紅葉が楽しめます」と教えていただきました。そのほか、紫宸殿南庭の左近の桜を拝領したというヤマザクラや、それぞれ樹齢600年、400年と推定されるクスノキなど、歴史を感じる樹木を愛でながら参拝できます。ヤマザクラが見頃になると、戦前・戦中に近くに住んでいた日本画家の上村松園さんがよくスケッチに来ていたそうです。また、クスノキにはアオバズクが毎年、初夏に飛来し、子育てして初秋に南へ飛んでいきます。
次に御苑内を北に進み、中立売御門を出ると、烏丸通を隔てて京都府公館があります。府民ホール「アルティ」に併設された施設というと分かりやすいかもしれません。かつて知事公舎がありましたが、昭和63年に建て替えられ、公館部分にはレセプションホールや会議室を設置し、国際交流や表彰事業などに活用されています。
エントランスを入ると重厚感ある工芸品が並び、レセプションホールからはガラス越しにお庭の様子が見えてきます。建物の間口に広がった土間庇(どまびさし)はお庭への視線を遮りますが、ホールを出ると飛び石が苑路へと導き、視界もお庭から茶室、そして澄み切った青空へと大きく広がりました。
国内外で活躍する作庭家で僧侶の枡野俊明さんが庭園を、茶室・数寄屋建築研究の第一人者と言われた中村昌生さんが茶室を手掛けました。賓客をもてなす空間と日本の芸術文化が溶け込む演出は、街の喧騒から隔絶されたように感じます。おじゃましたときは紅葉には早い時期でしたが、秋の深まりとともにその趣を異にしていくものと期待が高まります。
午後からは新たな文化発信拠点、堀川新文化ビルヂングに出掛けました。全国初の店舗付き集合住宅として、戦後の市街地復興の象徴といわれた堀川団地ですが、その北端にあった棟の跡地を活用し、一昨年秋にオープンした複合文化施設です。西陣にほど近く、伝統工芸を継承する地域。書店を入り口に、ギャラリー、カフェ、印刷工房が備わり、地元で進められてきた「アートと交流」や地域活性化の拠点になっています。
わくわくする本棚の脇を抜けて2階へ上がると木のぬくもりに包まれたギャラリーNEUTRAL(ニュートラル)。訪問したときは開館2周年を記念した、丹後の「糸」に焦点を当てた展覧会が開かれていました。約3週間の会期で企画が繰り返され、複数の展示を同時開催することも。気軽に芸術を楽しんでほしいという願いからオープンしたそうです。
お散歩ついでに書店で本を読み、カフェでお茶を飲み、ギャラリーにちょっと寄る―。生活空間にハレの日を見つけ、芸術の秋を堪能してみませんか。