1冊の本から広がる「新しい世界」 人と本、人と人をつなぐ京都の書店

1冊の本から広がる「新しい世界」 人と本、人と人をつなぐ京都の書店

令和5年3月27日に文化庁の京都移転を迎えるにあたり、改めて京都の街に息づく多様な文化に触れてみたい。リレー対談『京都の文化を考える』第2回のテーマは「本」。京都市内で書店や絵本カフェ、雑貨店を展開する「ふたば書房」の代表取締役・洞本昌哉さんとともに、紙の本の魅力や、読書のスタイル、地域に根ざした書店の価値について考えます。


左から京都府文化政策室・吉岡李英さん、ふたば書房 代表取締役・洞本昌哉さん、京都府文化政策室・小泉慶治さん

−−京都は茶道や華道、能、狂言などに代表される伝統文化や生活文化だけでなく、街に息づく文化がたくさんあります。その筆頭と言えるものが「本」だと思います。「ふたば書房」さんは、京都の街の書店として90年を超える歴史をお持ちですが、京都の文化をどう捉えていらっしゃいますか?

洞本:1930年に祖父が銀行員を辞めて、千本上立売に書店を開いたのが始まりです。父がその跡を継ぎ、私で三代目になります。創業当時は金融恐慌で経済が大変に不安定な状況でした。祖父は「どれだけ時代が厳しくても、本を読むことは希望につながる」と考え、銀行の同僚たちとともに「ふたば書房」を創業したのです。当初は文芸書を中心に、子どもたちが学校で使う教科書、美術書などを取り扱っていました。

京都を代表する伝統文化のひとつでもある「西陣織」の帯の図案を考える職人さんたちにとって、当時の美術書は大事なアイデアブックでした。織屋さんが求める美術書がない場合は、自社で出版することもありました。

−−地域に根ざした書店としての役割が、ふたば書房さんの原点なのですね。近年は雑貨店や、町家を改装した絵本カフェも展開されています。「本」という文化的な価値を大切にしつつ、新たな広がりを創出されていますね。

洞本:「活字離れ」ということが言われて久しいですが、実は日本国内で発行されている出版物の数は、世界的に見ても大変多いのです。日々、大量の新刊が世に出てきます。
そんな状況の中で、絵本は「ぐりとぐら」(作:中川李枝子、絵:大村百合子 福音館書店刊)がいまだに1位だったり、時代を経ても変わらない人気があります。親から子へ、子から孫へと、3世代にわたって同じ物語を家族で語り合える絵本という存在は、とても大きな意味を持っていると思います。何回読んでも、その時々に新しい発見があるのも絵本ならではの魅力です。

新大宮商店街にある町家を改装した絵本カフェ「Mébaé (めばえ)」では、実際に絵本を手に取り、ページをめくってお読みいただけます。コーヒーと一緒にゆっくりと絵本を楽しんでいただく時間の中で、お気に入りの一冊との出会いが生まれると嬉しいですね。

−−本との出会いを通し、多様な文化や価値観を知ることで、新しい世界が広がっていく。大学が多い京都は「学生のまち」とも呼ばれます。読書という文化と、それを支える書店の存在は、京都という街の奥深さにつながっていると思います。

洞本:SNSなどで情報が簡単に入手できる時代だからこそ、書店は人と本、人と人をつなぐ役割を担う存在でありたいと思っています。自分が求めていた本に出会った時の喜びは、かけがえのないものです。新しい文化と出会う場として、これからも本の楽しみ方の幅を広げていきたいです。

  • sponsored by 文化庁京都移転プラットフォーム
  • 出典:ハンケイ京都新聞『1冊の本から広がる「新しい世界」 人と本、人と人をつなぐ京都の書店』
    (URL:https://hankei500.kyoto-np.jp/archives/3870
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